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ワインに硫黄が混入?その実態は?

Sulphur in your wine? What’s the real story?


ワインと硫黄の問題


決して誤解のないように。私はここで「自然派ワイン」を批判するつもりはありません。個人的にも、「自然派ワイン」を作っている友人がいますし、自然派ワインとして流通しているもので、大好きなものもあります。むしろ、私が一番飲みたくないのは、加える必要のない化学物質がたくさん入っているワインなのです。


自然派ワインについてあえて問題提起するとすれば、これです。“自然派ワインは二日酔いしない”という科学的根拠にかけたとんでもない主張ももちろんそうなのですが(驚きの事実!自然派ワインを飲んでも、他のアルコール飲料を飲んだ時と同じように二日酔いする可能性があります)、正当な理由なしに「ナチュラル」や「自然」という言葉を濫用し消費者を翻弄している点です。この言葉が濫用されることによって、違う手法でワインを造る人は、必然的にどこか「不自然なこと」をしているという印象を与えることになっているのです。 私には、これは良いワイン造りというよりも、悪質な「マーケティング戦略」であるように見えてならないのです。


と言ったものの、これは今日お話することとは別の話です。


本題に入る前に覚えておいてほしいのは、自然派ワイン運動(Natural Wine Movementのこと)というのは、全く同じ考えや手法を支持している人だけが集まっているわけではないということです。一般的に、自然派ワインとは、天然(野生)酵母の使用、硫黄などの添加物使用が最小限であること、発酵の際に人為的介入を最小限に止めること、といったアプローチでつくられたワインであるというのが一般的な理解です。


(実際、ニュージーランドのワイン醸造家のほとんどは、極力人為的介入をせずに造っていると思います。)


前述した手法の中でも特に注目を集めるのが、食品添加物の二酸化硫黄(亜硫酸塩。本記事ではSO2と表記する際同じ意味で使っています)です。インターネット上のワイン記事や雑誌、巷のワインバーや、Clubhouseなどで頻繁に話題に上がるトピックです。


日本のワイン醸造において、二酸化硫黄の使用は特に注目されてきました。SO2の使用は、悪質あるいは怠慢なワイン造りと結びつけて考えられています。ワインをグラスで1、2杯飲んだときに起こる、飲酒により起こる身体への悪影響の原因はSO2によるものだと信じられているのです。


この思い込みは必ずしも正しくないと思いますし、消費者には本当のことを知る権利があります。


冒頭でお話したように、何かを批判しようとしているわけではありません。ワインについて語る際、自分の嗜好が最も重要なのです。もし、あなたがNWMの基本的な信念を支持するのであれば、それはそれでいいでしょう。

研究内容を理解することで、少なくとも研究結果に基づいて意思決定できるようになると思いますし、私たちが日々目にしているマーケティング戦略による数々の宣伝の内容は、ワイン造りのように実直なものではないことを認識する良い機会になるかもしれません。


この記事を書いた際、最新の統計データを参照したわけではないので、数字は若干ゆるいですが、極力保守的にお話しします。


本題は、ワインを飲んだ時に二日酔いのような悪い反応が出ても、それはSO2が原因ではない可能性が高いということです。


SO2について、新たにマスター・オブ・ワインに認定されたソフィー・パーカー=トムソン氏の論文で詳しく研究されています。

SO2を正しくコントロールしながら使用することで、かえってワインが身体に与える悪影響を軽減できる可能性が高いというのです。*1


そこでこう思う方もいらっしゃるでしょう。「でも、硫黄は人体に大きな悪影響があるでしょう?」


そうですね、これは全くその通りです。

・・・特定の人にとって。


その特定の人というのは、ごく一部の人であるという研究結果があります。

重度の喘息患者のうち、硫黄にアレルギーを持つ人は3〜10%にとどまります。全人口の3〜10%でも、全喘息患者の3〜10%でもなく、“重度の”喘息患者の3〜10%です。この対象者に引き起こる硫黄によるアレルギー反応は、極めて稀なケースを除いて、主に呼吸困難です。


つまりSO2は、呼吸を乱すのです。


喘息の罹患率は国によって異なりますが、WHOの推計では世界に約3億人の喘息患者がいるとされています。これは、80億人近い人口の中で、4%に満たないことを意味します。重度の喘息患者は、その4%のうちの5〜10%と推定され、そのうちの3〜10%が硫黄に重度の反応を示すというのです。

言い換えれば、硫黄によってアレルギー反応を起こすのは(計算を切り上げても)世界人口の0.001%以下というごく一部の限られた人のみであるということになります。


SO2が食品添加物として非常に多くの食品に使われているのは、酸化防止剤、抗菌剤として、食品に使うことができる唯一の天然または合成化学物質が硫黄であるからです。


ジュース、ドライフルーツ、ソーセージ、ピクルス、食酢、缶詰飲料・・・、数えきれないほどの食品にSO2が含まれています。SO2は風味を保ち、安定させ、微生物による腐敗から食品を守ってくれるのです。


実際、私が知っている限り、SO2の使用が厳しく管理されているのは、おそらく水産業界だけだろうと思います。


では、あなたの身体は、認識できるほどSO2の悪影響を受けているでしょうか?

それを知るには、次のような簡単なテストをしてみてください。

コーラを飲んだ時に同じような症状がありますか?

加工されたオレンジジュースはどうですか?

ドライフルーツを食べた時に同じような症状がありますか?

これらはすべて、安価なワインと比較しても、何倍ものSO2を含んでいる食品です。コーラやドライフルーツで同じような症状に悩まされているわけではないとしたら、ワインを飲んだ時に現れる症状について、SO2は悪者ではなかったことになります。


実は、私自身、硫黄のアレルギーを持っています。高濃度で摂取すると呼吸困難に陥り、そのまま摂取し続けると完全なアナフィラキシーを起こすと思われます。


しかし、ワインでそのような反応を経験したことはありません。大量生産されたピクルスを食べた時にはその反応を経験しました。


加筆するとすれば、私はワインを大量に消費します。


さらに付記するとすれば、私は日本でニュージーランドワインのバーを経営しています。


ニュージーランドには喘息患者が多いという点も注目すべき点です。そのような中で、ニュージーランドでは、ヨーロッパやアメリカ、日本のように、硫黄分をゼロにすることを推進する「NWM」という活動はそれほど盛んではありません。


ニュージーランドのように喘息患者が多い国で、ワインに含まれる硫黄が人々にそれほど悪影響を及ぼすとすれば、ニュージーランドでは低SO2またはゼロSO2のワインの需要は非常に高いでしょうし、世界的に生産拠点になっていてもおかしくはないでしょう。


東京にある私のお店で(専門的に分析されていないので科学的調査とは言えませんが)複数のお客様から、「ワインに含まれる硫黄の成分にアレルギーがあるので私は自然派ワインしか飲まない」とおっしゃった方がおられました。ニュージーランドのワインは一般的に含まれる食品添加物の量が非常に少ないという説明をした後、私はそのお客様にニュージーランドワインをご提供しました。もちろん私を信じてオーダーしてくださったようでしたが、疑念が残りつつも「自然派ワイン」ではないワインを飲み進めながら、悪酔いの反応や二日酔いの兆候が現れないことを、大変不思議に感じていらっしゃったようです。


また、「いつもワインを飲むとひどい頭痛や二日酔い、ほてり、くしゃみなどの症状が出るからワインは苦手だ」という経験談を聞いたこともあります。忘れてはならないのは、これらの症状はSO2が引き起こしているとは言えないということです。


SO2が引き起こすのは呼吸に対する悪影響です。


前述のお客様は後日再度来店されて、「この前のワイン、驚いたことに次の日にまったく残らなかった。二日酔いすると思っていたのに!」とお話くださいました。


個人的には、人為的介入を最小限に抑えることについて賛成の立場です。生物多様性を促し、危険な化学物質の使用を極力制限することで、ブドウ畑を保護していくアプローチにも大賛成です。このように考えるのはもちろん私だけではありません。マーティンボローにある、Butterworth Estate(バターワース・エステート)のチーフワインメーカー、マーティン・ベル氏は、このような考え方はすでに広く一般的に浸透していると言います。また、ニュージーランドには“最小公倍数理論がある”と教えてくれました。「市場(消費者)がワインにXを添加することを求めていなければ、生産者が市場に出回るワインにわざわざ添加することはありえないですね。私のように小さい生産者にとって、Xを添加するために複数種類のブレンドを作ることは理にかなっていません。そんなことなら、初めから添加しない方がいいでしょう。」


NFM(自然派ワイン運動)は、1960年代にフランスのボジョレー地区で始まりました。あるワインメーカーのグループは、当時市場に出回っていたワインには、自分たちの若い頃の記憶―つまり自分たちの祖先が何代にもわたって飲んできた、伝統的な方法でつくられたワイン―と、近代化の影響で大量生産のプロセスや農薬・合成化学物質が導入され近代的につくられたワインには、ほとんど何の共通点もないと感じていました。


彼らは、基本に立ち返ろうとしたのです。私はこのムーブメントを全面的に支持します。ぶどうの原産地さえわかない、魂のこもっていない、大量生産された個性や風土を反映できないワインは、ワインの本質を見失っていると私は思います。


ここで私がみなさんにお伝えしたいのは、自然派ワインを販売する人の多くが、SO2に固執しているという問題です。


自然派ワイン運動の始まりは、畑やワイナリーを離れ、研究室で開発された大量生産ワインへの反発からだったと言えるでしょう。

ニュージーランドの生産者の多くは、品質を何よりも最重要視しています。私は、それがニュージーランドで自然派ワイン運動が本格的に普及しない理由ではないかと思っています。もしかしたら、もともと、生産されるワインが平均的に高品質であったため、反発すら不要だったのかもしれません。


その話はまた別の機会にしましょう。


さて、ここまで読み進めてくださった読者のあなたに、本当のことをお教えします。


SO2はブドウを発酵させる時に、必ず発生します。


つまり、すべてのワインに、何も添加されなくてもSO2はすでに含まれているということです。


「SO2ゼロでナチュラル」だと謳っているワインでも、SO2は含まれています。何らかの科学的プロセスでSO2を除去してしまったら、それは「ナチュラル」とは呼べないですね。


もしあなたが、自然派ワインのファンであるのなら、それは素晴らしいことです。

先述の通り、個人の好みが最も重要だからです。私にとっては、あなたがワインを好きかどうかこそが、唯一重要なことなのです。


消費者である私たちは、ドグマや怪しげなマーケティング戦略に翻弄されて、SO2に汚名を着せるべきではありません。そんなことをしたら、何百もの素晴らしいニュージーランドワインとの出会いを自ら遠ざけていることと同じです。


  1. Sophie Parker-Thomsons research paper ‘What is the relationship between the use of sulphur dioxide and biogenic amine levels in wine? is available for download on the Master of Wine website https://www.mastersofwine.org/rp


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